こんにちは。こんばんは。シンママナースのたまごです。
みなさんは痛みに強いですか?
何をしていても痛いという状況になったことはありますか?
わたしは、おなかが痛い、頭が痛い、腰が痛いなどの痛みは経験したことがあります。しかし、「何をしていても痛い」という状況になったことはありません。
今回は、がんの転移による痛みについてお話したいと思います。
みなさんもご存じのように、がんは転移します。
おなかの中でできたがん(たとえば胃がん)も、腹膜播種といって腹膜のいたるところに転移します。乳がんや肺がんは骨に転移しやすいと言われています。
また、大腸がんになると腫瘍によって便通が悪くなり、腸閉塞になりやすくなります。腸閉塞は便が出ないことや腸の動きが悪くなることで、かなり激しい痛みを伴います。
骨に転移した場合も同じです。
手を動かすだけ、少し身体を動かすだけでも激痛が走ります。
もちろん痛み止めはありますが、なかなか効果が出にくいこともあるのです。
料理を作り続けた患者さん
ある患者さんのお話です。
50代男性の胃がん末期の患者さんがいらっしゃいました。
腹膜播種を起こしており、肝臓や大腸にも転移している状態でした。
元気な頃は職人としてバリバリ働いていたそうで、写真を見せていただくと、ふっくらとした体格の良い方でした。
しかし、初めてお会いした時にはかなり痩せていました。
それでも、とても明るく陽気で、たくさんお話をしてくださる方でした。
ご両親と同居されており、認知症で料理が作れなくなったお母さんの代わりに台所へ立つ姿を何度も見せてもらいました。
時には作った料理を食べさせてくださることもありました。
それが本当においしいんです。
わたしにとっては、兄貴のような存在の患者さんでした。
病院では抗がん剤の効果がなくなり、
「できる限り自宅で過ごしたい」
とのことで、わたしたちが介入することになりました。
それでも、
「身体が動くうちに韓国旅行へ行ってくる」
と、3泊で旅行に出かけるような前向きな方でした。
徐々に進行する病気
しかし、病気は少しずつ進行していきました。
最初に現れたのは腸閉塞でした。
「便が出にくい」
との訴えがありました。
最初は腸の音も聞こえていましたが、2日ほどすると全く聞こえなくなりました。
「昨日からガスも出ていない」
とのことで受診していただいたところ、腫瘍による腸閉塞と診断されました。
イレウス管を挿入してもらい、症状は改善しました。
次に現れたのが骨転移による痛みです。
最初は、
「ベッドから起き上がる時に痛い」
という腰痛でした。
長く横になっていることによる腰痛かと思っていましたが、明らかに痛がり方が尋常ではありませんでした。
骨転移を疑い受診していただくと、そのまま入院となりました。
検査の結果、骨転移が判明し、痛み止めの調整が始まりました。
「眠くなるから飲まない」
約1か月の入院後、
「やっぱり両親となるべく一緒にいたい」
とのことで退院されました。
痛み止めの調整はされていましたが、少しずつ痛みは悪化していきました。
寝返りをする。
お茶を飲む。
それだけでも激痛が走るようになっていました。
わたしたちは何度も、
「頓用の痛み止めを飲みませんか?」
と声をかけました。
しかし返ってくるのは、
「眠くなるし、食事が作れなくなるから」
という言葉でした。
患者さんは車いすに乗りながら料理を続けました。
時にはわたしたちが包丁を握り、味付けを教えてもらいながら一緒に調理することもありました。
痛みを我慢した先にあったもの
本人の希望をかなえることを優先していましたが、最期の3日間は痛み止めも効かないような状態になりました。
昼も夜も関係なく、ずっと苦しんでいました。
わたしは思わず、
「痛みで苦しんでいる姿を見るお父さんやお母さんが一番苦しいよ」
と伝えました。
すると患者さんは、ようやく強力な痛み止めを使うことを許可してくれました。
しかし、なかなか効果が出ませんでした。
痛みを限界まで我慢していたことで、通常量では十分な効果が得られなかったのだと思います。
もう少し早く痛み止めを使えていたら。
もっと楽に過ごせたのではないか。
当時のわたしには、その必要性を説明できるだけの知識と経験が足りなかったのだと思います。
最期の1日は薬の量を増やしたことで痛みが落ち着き、眠ることができました。
穏やかに休まれている息子さんを見て、ご両親がホッとされた姿を今でも覚えています。
最期は家族みんなで、ゆったりとした時間を過ごすことができました。
痛みを我慢しないという選択
痛みは本人だけではなく、支えている家族もつらいものです。
昔は鎮痛剤を飲むことを、
「弱いこと」
「身体に悪いこと」
と考える風潮がありました。
わたし自身も中高生の頃は、生理痛があっても我慢していた記憶があります。
あの患者さんは、最後までご両親のために料理を作りたいと願っていました。
その思いは、とても素敵なものだったと思います。
そして今振り返ると、痛みを我慢することでご両親への想いをかなえようとしていたのだと感じます。
しかし、その選択は本人だけではなく、支えているご家族にも大きな影響を与えていました。
もし今、痛みを我慢している方や、ご家族の痛みを心配している方がいるなら知っていてほしいことがあります。
痛み止めを使うことは負けではありません。
弱さでもありません。
大切なのは、残された時間を少しでも自分らしく過ごすことです。
痛みを我慢するためではなく、やりたいことを続けるために薬を使う。
そんな選択肢があることを、あの患者さんとの出会いが教えてくれました。


