「知らんかったか?」|ポカリの中のお酒が教えてくれたこと

訪問看護

こんにちは。こんばんは。シンママナースのたまごです。

訪問看護師を始めて10年以上が経過しました。

周りの先輩方からは「会うたびに楽しそうに仕事してるね」と言われるほど、充実した毎日を過ごしています。

わたしが訪問看護を楽しいと感じる理由の一つに、「治療ではなく、楽しみながら生活してもらうこと」を大切にしているところがあります。

もちろん、痛みや苦しみは取り除けるように対応します。食事や水分が入らなければ点滴もできますし、排便コントロールが難しければ浣腸などの処置も行います。

自宅でも「こんなに楽になれるんだ」と思っていただけるように、いろいろな知恵を出していきます。

それは患者さんだけではありません。患者さんを支えるご家族が、少しでも楽に、少しでも笑顔で介護できるように支えることも、わたしたちの大切な役割です。

病院と自宅の大きな違い

病院と自宅での生活には、大きな違いがあります。

その一つが「タバコ」と「お酒」です。

入院中であれば、当然ながら禁止されていることがほとんどでしょう。場合によっては強制退院になることもあります。

一方で、自宅での生活では少し考え方が変わります。

訪問看護師は「注意」はしますが、「禁止」はしません。

もちろん健康への影響はお伝えします。しかし、それによって患者さんの楽しみや生きがいが失われてしまうのであれば、本当にそれがその人にとって幸せなのかを考えることがあります。

楽しみや生きがいを持って生活することも、在宅介護では大切なケアの一つだと思っています。

ポカリの中に隠されていたもの

以前、80代の男性を担当していました。

アルコール性肝硬変を患っている方でした。

元気な頃は自分で食事を作り、コンビニへ買い物にも行かれていました。

ベッドサイドにはいつもポカリスウェットが入ったコップが置かれていて、ストローで少しずつ飲んでいました。

ご家族からも、

「お酒は飲まなくなりました」

と聞いていました。

わたしたち訪問看護師も、

「すごいですね」

と話していたくらいです。

しかし数か月が経過し、病気は徐々に進行していきました。

腹水がたまり、全身には黄疸が出現し、倦怠感も強くなってきました。

そんなある日のことです。

患者さんが弱々しい声で、

「ベッドと壁の間にお酒があるから、ポカリと割ってくれ」

と言いました。

思わず、

「え?お酒が入ってたの?」

と聞き返しました。

すると患者さんは、いたずらっ子のような笑顔でこう言ったんです。

「知らんかったか?」

患者さんの楽しみだった一口

500mlほどのコップにポカリを9.5割。

お酒は0.5割。

患者さんは得意げに、

「そんくらいがちょうどいいんだ。あまり入れると匂いでバレるんだ」

と教えてくれました。

ベッドから起き上がる元気はなくなっていました。

だからこそ、わたしに頼んだのだと思います。

作ったポカリを渡すと、患者さんは本当に嬉しそうな表情でストローをくわえました。

あの時の笑顔は今でも忘れられません。

病気は確実に進行していました。

それでも、その一口のお酒は患者さんにとって大切な楽しみだったのだと思います。

わたしたちが支えたいもの

病院では考えられない光景かもしれません。

でも、自宅では案外よくあることです。

わたしたちが目指しているのは、ただ命を延ばすことだけではありません。

もちろん少しでも長く、苦痛なく過ごしていただくことは大切です。

でもそれと同じくらい、

「今日も楽しかった」

「今日も笑えた」

と思える時間を支えることも大切だと思っています。

患者さんの嗜好に付き合うことも、その一つです。

もちろん飲み過ぎや吸い過ぎは止めることもあります。

しかし、ほどほどに楽しみながら、自分らしく過ごせているのであれば、それも大切な生活の一部です。

「知らんかったか?」が教えてくれたこと

生活している自宅に、わたしたちは入らせていただいています。

そこには病院では見られない、本来の患者さんの姿があります。

だらけている日もある。

タバコを吸う日もある。

お酒を飲みたくなる日もある。

それも含めて、その人らしい生活です。

わたしたちの仕事は、病気だけを見ることではありません。

その人らしい生活や、その人らしい笑顔を支えることです。

あの時の患者さんは、

「知らんかったか?」

と、いたずらっ子のように笑っていました。

その笑顔を思い出すたびに、訪問看護の面白さと奥深さを感じています。

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